Toshiko Kamada
風だけが見える

私に風だけが見えるとしたら
私の世界はどうなるだろう?
ある日、私の目が風だけを捉えるようになって
他の全てが見えないとしたら
私はまぶたをそっと固く閉じて、
そんな世界に焦点を合わせてみる
風を見るとはどんなふう?
形と色はどうなるの?
。。それがわからないことをまず受け入れよう
風は動くのだ
ああ風が吹いていると
今まで思っていたものは、風のほんの一部に過ぎないことを私は知る
空気は動いている、そこでもここでも これも風?
凪いだら?
一瞬何も見えなくなるのかしら?
それが凪の印
見えない”私”が一歩踏み出すと、風に変化が加わる
その風が地球を一巡して、見えない誰かの背中を押している
見えない”木々”は風に吹かれっぱなしではない
あの薄く柔らかな、今や透明な若葉にあたった風はほんのすこしだけ、はねかえされている
サワサワと声を上げながら生み出される乱気流
見えるものと見えないものの境界線を飛び越えて
反転した次元に潜り込んでみる
境界線?
風に境界はあるの?
そうね、見えないものたちとの際をすり抜ける風も
何かの時空を占めている
地球も見えない
宇宙も見えない
けれど
風が
あらゆる音を起こして
あらゆる匂いを立ち上げながら
今や透明な事物を、生き物を動かして
毎瞬間、風自身のための新しい通り道を創り続けている
でんぐり返った世界を
十分堪能したら
また一度まぶたを固く閉じて眠りにつこう
目が覚めると
私は風だけが見えない世界に戻っている
でももう以前と同じ世界ではない
風だけが見える世界を一度経験した今は